Ambivalent Wanderer

脳科学(認知科学)、ロボット、現代美術。興味があること、考えたことについて細々と書いています。

システム開発未経験の新卒がPMになった結果 (1年後)

こんにちは、Mikenerianです。


今回は仕事絡みです。
退職したわけではありませんが、流行りの「退職エントリー」並みに、1年間自分がもがき苦しんだ結果をここに残します。(長文です)


結論だけ、ここに書かせてください。


どうか日系大手SIer企業は、ITエンジニアを志す若手の成長を阻害しないでください。
PM (Project Manager) を、技術を知らない若手にいきなり任せるなどという暴挙にはこれ以上出ないでください。
それは将来、あなた達の首を絞めることになります。あなた達が変わらなければ、日本は変わりません。


後述しますが、日本ではITエンジニアが不足すると言われています。
その一方で私の体感では、プログラミングを触り始めたことがきっかけでIT技術に興味を持ち、学んでみたいと考える若者はたくさんいます。

そういった若者がIT企業に就職すると、最初からPM (Project Manager) を任せるのは日本の悪癖です。


就活生の皆さんへ。

就職先に安定を求め、いわゆる大手SIerと呼ばれる企業に就職すると私のような目にあいます。
正直、技術者を育てようという意識が欠如していると言わざるを得ません。

本当にITエンジニアになりたい若者は、甘い言葉で就活生を惑わすIT企業ではなく、ITベンチャーかYah◯◯のような即戦力を求める会社に就職することを強く勧めます。

そのためにも、就活が始まる前から独学で勉強しましょう。プログラミングをやるのに早すぎるということはありません。今はそのためのツールが充実していますし、私も仕事の傍ら勉強しています。


以下、私が歩んだ就活時代〜入社1年の軌跡を振り返りつつ、上記のような結論に達した理由を詳しく説明します。

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志望理由

学生の頃は生体計測系の研究をしていました。

以下の記事のように、研究やハッカソンで少しプログラミングを学び始め、ゆくゆくはプログラミングを仕事にしてみたいと思ったのが今の会社に入社したきっかけです。
mikenerian.hatenablog.com


今いる会社のインターンにも参加しました。インターンではBtoCサービスのインフラチームに配属され、初めてのvimエディタに四苦八苦しながらも、なんとか一つのモジュールを完成させることができました。

このような経験があったから、入社してもプログラミングを使うことができる。新しい技術を学ぶことができるという期待があったのかもしれません。

しかし入社して配属されたのは、いわゆるPM (Project Manager) 部隊のチームでした。

後に分かったのは、私がインターンで配属されたのは「子会社」だということ。
「本社」でプログラミングができる部署は、研究専門の部署くらいだということでした。



最初の3ヶ月は、ついていくだけで必死だった

入社後の研修は1ヶ月弱。プログラミングの研修はJavaScriptで「Hello World!」して終わる程度のしょぼいものでした。
おそらくプログラミングを継続的に行う人はほとんどいないからでしょう。


配属先について幸運だったことは、新しくできたばかりのチームだったことです。
昔ながらのPM案件が多い中、最先端のPMに触れることができました。
人が少なく、1年で様々なことが経験できたことも今となっては幸運でした。

アジャイル開発」や「SaaSサービス」といった、今後も成長が期待される分野について知見を深めることができました。
もちろん最初はSaaSって何?AWS何が凄いの?みたいなところから始まったわけなので、先輩の商談に付き添い、ひたすらにインプットする毎日でした。

そもそも人が少ないチームなので、受注が決まるたびに猫の手も借りたい状況になってきます。
この環境を10個くらいコピーしてくれない?みたいな感じで、誰でもできそうな仕事を片っ端からやりました。

そんな新規事業のチームに新人を配属するほど、大手SIerの企業が冒険せざるを得ない状況に置かれていると気づくのは後になってからでした。



慣れてきた頃、任されたのはイベント担当

提供サービスについて知識がつき始め、雑用係として自立でき始めた頃、上司からミッションが与えられました。


「このイベントで、チームのサービスを紹介してよ」


300人規模のセミナーで、チームのサービスを紹介する。

初めて任された、自分だけの仕事。

絶対成功させようと意気込み、プロジェクトリーダー的な立場としてあらゆる仕事をこなしました。

・スケジュール管理
・紹介するサービスの仕様固め
・イベントの人員確保
・イベントの導線設計
・紹介動画の作成
・紹介パンフレットの作成

上のリストを見てあることに気づいた方もいらっしゃることでしょう。そう、上にあるタスクはPMとして基本的なタスクなのです!

上手くいかないサービスチームとの交渉、なかなか降りてこないイベント情報。
当時は不慣れなためか、それとも自分の能力不足か、上手く行かないことの連続でした。


それでもイベントをやり抜き、結果的には成功したと言って良いと思います。


やり抜くまで、プログラミングを全然していないことに気づかないほどには全力をかけていました。



そして、PM (Project Manager) として始動する

入社して9ヶ月。チームのイベント担当としてすっかり定着した私は、ついにPMとして独り立ちする日を迎えました。(唐突に)

ついに、とある小さな案件のPMを任されたのです。

「優秀なベンダーがついているし、それほど要件も厳しくないから大丈夫」

先輩の一言ですっかり乗せられた私ですが、この言葉が全て地雷となったのは言うまでもありません。

そもそもPMとは何をする立場かというと、イベント企画時に行った仕事をしっかり目にこなすだけです。
・(イベントの)スケジュール管理→サービス開発のスケジュール管理
・紹介するサービスの仕様固め→サービスの要件定義
・イベントの人員確保→ベンダー(開発してくれる子会社)の選定
・イベントの導線設計→サービスの提供方針決定
・紹介動画の作成→説明資料の作成
・紹介パンフレットの作成→要件定義書の作成

任されたプロジェクトはすでにベンダーが決まっており、スケジュール(納期)も決まっていました。
私がやったことは、淡々とスケジュールを組み、課題を管理してベンダーに伝えること。
定例などの会議では議事録を書いて、「この通りで進めてください」と確認を取ること。


要するにお客さんとベンダーの、ただの橋渡し役でした。


先輩の言葉のうち、前半部分の地雷が爆発します。
「優秀なベンダーがついている」
とは、PMとしてやるべきことはただの橋渡しでしかない。ということだったのです!

そんな案件なので、1月、2月は大きな問題もなく過ぎていきました。
私も「意外とPMできてるな」なんて思っていました。


しかし世の中のPMはそんなに甘くありません。
3月、恐れていた事態が訪れます。


突然の仕様変更


もう、PM業界では日常茶飯事、Twitterでもよくネタにされる「突然の仕様変更」がついに来ました。
togetter.com


「いつになったらできるのか?」と客は詰めかけ、「それはできません」とベンダーは首を縦に振りません。

先輩の言葉のうち、後半部分の地雷も爆発しました。
「それほど要件も厳しくないから大丈夫」
この言葉ほど、世の中で信じてはならない言葉はありません。

私はこの板挟みで、生まれて初めて「胃に穴が空きそう」という感覚がわかりました。


何もできなかった私は、(一部略)、上司へ相談しました。

唯一の救いは、上司が人格者であったこと。
「辛い思いをさせたのであれば、私にも責任がある」と言ってくださるような、人徳のある方でした。(その場で泣きました)

結局私は仕様変更に伴うトラブルに対して何ら有効策を取れず、先輩に頼ることしかできませんでした。

ただただ悔しく、自分が情けない。そう思いました。



2年目に突入

先述した案件は無事リリース(提供)を終え、今は落ち着いています。

あのような板挟みの苦しみを味わいたくないと、心の底から思っています。
PMへのモチベーションが無い以上、さらに苦しんで成長することに意義を感じませんし、逃げるのが人間の心理として普通だと思います。


PMとは、何か。

サービスについて何も分かっていなくとも、管理者然としてふるまわなければならない立場。

それがPMです。


「サービスについて知らないお前が悪い」と言われればその通りですが、提供するサービスなんて案件によって変わってきますし、汎用的な知識だけでは限界が来ます。

そこで求められるのは「PMスキル」なるものですが、それを磨いたところで、プログラミングスキルは何ら成長しません。
xtech.nikkei.com


以下のようにPMの必要性はあると私も思いますが、1年体感して得た印象はそんなに綺麗なものではありません。
www.orangeitems.com

プロジェクトマネジメントは顧客(経営者)とプロジェクト(技術者)の間に立ち、両者を調整する役割となっていると思います。プロジェクトマネジメントは技術者の仕事ではないです。しかし、不要ではありませんし、技術者の持つスキルも必要で、顧客(経営者)の持つビジネススキルも必要となる、高い資質が必要な職域です。


私の印象は、「客の奴隷」として理不尽な仕様変更を受け続け、あらゆる困難を可能にするための調停者です。


「ICTで、未来を変える」だとか、「不可能を可能にする」という甘い言葉を、決して信じてはいけません。

それはつまり、

「客のいいなりで、未来はうつ病か、「不可能をゴリ押しでちょっとだけ可能にする」だけです。


ところで、落ち着くまで忘れていたことがあります。


プログラミング、全然できてない!!!!


気づけば「PMへの道」を歩まされ、まったく「ITエンジニア」としての技術的な領域に触れていないのです。

ゼネコンに入っても自ら大工にならないことは自明ですが、
SIerに入っても自らプログラマにならないことは、
世間一般の常識ではないと思います。


正直日本のITシステムを担う企業でこのような新人教育では、日本のIT人材不足は一向に解消されないと思います。
tech-camp.in



今のシステムでは、新卒一括採用で全部署に一定数を配属せざるを得ない以上、一部は私のような配属になるのでしょう。

しかし、本来であれば一定の技術経験がなければ務まらないような「マネージャー」職を、新卒にまでやらせるのはどうかと思います。



それでも今の会社にいる理由

先述したように、まったくの技術経験がなく、専門性も持ち合わせていないPMなど他の会社で雇ってくれるはずがありません。

また未経験での雇用となれば、ぶっちゃけ年収が下がります。


優先順位として、
年収 > 好きな技術を学ぶこと > やりがい > 福利厚生
という価値観です。

この前提があるからこそ、日系大手企業に入ったとも言えるでしょう。(他にもそういう人いませんかね…?)

奇しくもエンジニア業界の問題について論じた記事がIT mediaにも記載されました。
www.atmarkit.co.jp


よく「今の環境で技術系の業務はできないの?」と言う人がいますが、基本的に私の部署で開発は「アウトソース」です。
何の経験もない私が開発するより、優秀なベンダーが開発したほうが効率が良いわけです。
高くて無能な私よりは安くて優秀な外部ベンダーに、となってしまいます。
(それを変えられる方法を教えて下さい、人事の皆さん!)

幸運なことに、福利厚生だけは充実しています。
仕事は定時で上がらせて、それ以外の時間で独学で勉強しようと思っています。




不満ばかりを書きましたが、会社での生き残り戦略も一応考えています。

理不尽な状況にならないよう外堀を埋め、「PMスキル」なるものを自分のものとする。
PMスキルを身につけるプロセスを確立できれば転職しても通用するだろうし、そのノウハウでコーチングすらできるんじゃないかと思ってます。(ブログで食べていきたい)

自分が影響を及ぼせない範囲については諦め(不満を記事にし)、自分が影響を及ぼせる部分は及ぼせるだけ及ぼしていくつもりです!


ところで、新卒を前提とした日系企業の弊害は他にもあると思います。
・新人は地方勤務から始まる
・新人は飲み会の幹事が一番大きな仕事

こんな悪癖を仕方ないと受け止めて、しがみつける人間もいる。
耐えきれない私のような人間は、生き残らないでしょう。


日系大手企業とは、そんな世界です。



新入社員の皆さん、ようこそ、実力より体裁重視の企業へ!